大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和36年(ワ)2517号 判決 1961年10月24日

原告 毛利晴代

右訴訟代理人弁護士 井上義男

同 井上準一郎

被告 須山貞男

同 有限会社須山文房具店

右代表者代表取締役 須山貞男

右被告両名訴訟代理人弁護士 鈴木俊光

主文

一、原告と被告須山貞男との間において、別紙目録記載の建物が原告の所有であることを確定する。

二、被告須山貞男は原告に対し右建物について所有権保存登記をなした上、所有権移転登記手続をせよ。

三、被告ら両名は原告に対し右建物を明渡せ。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被告須山貞男が昭和三二年七月二八日原告から金一五〇〇、〇〇〇円を弁済期日同年五月末日の約で借受けたこと、その際同被告が原告との間に原告主張の停止条件附抵当権設定契約および代物弁済の一方の予約を約定したこと、昭和三三年七月末日被告須山貞男が旧建物を取毀して本件建物を新築しこれが保存登記をなす趣旨で昭和三三年八月二日旧建物の登記を流用して増築並びに構造変更による建物表示の変更登記をなし、かつこれにもとづき第三者のため先順位の抵当権設定登記等の登記をなしたことはいずれも当事者間に争いない。而して、本件建物が昭和三三年七月末日完成したことは当事者の間に争がないのであるから、右建物の完成と同時に原告と被告須山貞男との間に本件建物につき抵当権設定契約および代物弁済の一方の予約の効力が生じたというべく、被告須山貞男が原告より借り受けた右金一五〇〇、〇〇〇円を返済せず、原告から、その債務の弁済に代えて本件建物の所有権を取得する旨の意思表示をなし、該意思表示が昭和三五年六月一三日被告須山貞男に到達したことは当事者間に争いない。そうとすれば、右代物弁済予約完結の意思表示が被告須山貞男に到達したときに本件建物の所有権は適法に原告に帰属したというべきであつて、被告須山貞男は本件建物につき原告に対する所有権移転登記手続をなすべき義務を負担するものといわなければならない。ところで本件建物については滅失した旧建物の登記を流用しその増築ならびに構造変更を理由とする表示変更登記がなされていることは当事者の間に争がないところ、このような場合においては滅失した旧建物の登記簿を閉鎖し、新築した建物につき新たに保存登記をなすべきであつて、右のごとき登記の流用は登記制度の本質に照して許されないところと解すべきであるから、旧登記を流用した本件建物の登記は無効というべきである。従つて本件建物については、未だ適法な登記がなされていないというべきであるから、被告須山貞男は本件建物につき所有権保存登記をなした上、原告に対し前示所有権移転登記手続をなすべきものというべきである。

二、次に、被告須山貞男本人尋問の結果によれば、被告須山貞男及び同有限会社須山文房具店は現に本件建物を占有使用していることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そうすると本件建物の所有権が原告にあること前認定のとおりであるから、他に本件建物の占有権原につき主張立証しない被告らは原告に対抗し得る権原なくして本件建物を占有するものと認めるほかなく、原告に対しこれを明渡す義務があるものとなさざるを得ず、また被告須山貞男は本件建物を原告の所有であることを争つているので原告においてその確認を求める利益があると認められる。

三、さて原告の本訴請求は理由があるから全部これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言は、その必要がないものと認め、これを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 江尻美雄一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例